労働条件

みなし残業制・固定残業制はおかしい?違法性はない?

  • 現在の勤務先がみなし残業制や固定残業制を採用している
  • 求人情報でみなし残業制・固定残業制の企業を見かけた
  • そもそも違法性はないのかが気になっている

上記のような理由から「みなし残業制・固定残業制とは何か」が気になっていませんか?

労働条件を確認する上で、残業時間や残業代の扱いは必ず押さえておきたいところ。

一方で、こうした制度はそもそも違法ではないのか疑問に感じている人もいることでしょう。

この記事では、みなし残業制や固定残業制の仕組みと、違法になるケースについて解説しています。

みなし残業制・固定残業制の企業に応募する際のチェックポイントも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

みなし残業制・固定残業制とは?

はじめに、みなし残業制・固定残業制とはどのようなものかを整理します。

企業がなぜこうした制度を採用するのかが分かると、制度の意図がより分かりやすくなるはずです。

みなし残業制・固定残業制への理解を深めて、疑問点や不明点を解消しておきましょう。

みなし残業制と固定残業制はどう違う?

みなし残業制と固定残業制は、実はどちらも正式な用語ではありません。

労働基準法では「みなし労働時間制」と定められており、みなし残業制も固定残業制もこれに含まれます。

ほかにも「定額残業代」「固定残業代」などと呼ばれているケースが見られますが、呼称が異なるだけで同じ制度と考えてください。

どのような呼び方をした場合も、所定の残業時間を超えて従業員が働いた場合、勤務先は超過分の残業代を支払う義務を負います。

みなし残業制だから、固定残業制だからという理由で、超過分の残業代を支払わなくてよいことにはなりません。

みなし残業制の種類

みなし残業制・固定残業制は、労働基準法ではどちらも「みなし労働時間制」として扱われます。

ただし、あらゆる企業がみなし労働時間制を無条件で導入してよいわけではありません。

みなし労働時間制を採用するからには、労働時間を把握しにくい事情があることが大前提です。

実際、労働基準法ではみなし労働時間制の種類と適用できる業種を次のように定めています。

  • 事業場外労働:外勤営業、バスガイド、在宅勤務など
  • 専門業務型裁量労働制:研究職、デザイナー、コピーライター、弁護士など
  • 企画業務型裁量労働制:経営企画、広報、調査分析、人事労務など

裏を返すと、上記のような条件に当てはまらない職種で、管理者が労働時間を把握できる場合はみなし労働時間制を適用できません。

企業側が「当社はみなし残業制とする」と自由に決められるとは限らない点を押さえておきましょう。

企業がみなし残業制・固定残業制を採用する理由

企業がみなし残業制や固定残業制を採用する主な理由は2つあります。

1つは、労務管理を簡素化できるからです。

何時から何時まで勤務したのか、厳密に記録・管理しなくても「月40時間」のように決められているため管理が簡便になります。

実際には労災保険の関係上、勤務時間の管理が完全に不要にはなりませんが、少なくとも給与と連動した管理は楽になるでしょう。

もう1つの理由として、年間に支給する残業代をあらかじめ把握しやすいという点が挙げられます。

日々の勤務時間に応じて残業代を支給する場合、どの従業員がどれだけ残業するのか見通しを立てるのは容易ではありません。

一方、残業代が固定されていれば年間に支払うべき給与額をかなり正確に把握できます。

企業にとって従業員に支払う給与はコストに相当するので、コストの見込みが明確になれば財務面でメリットとなるでしょう。

このように、企業にとってみなし残業制・固定残業制の導入は労務管理・財務面でメリットとなり得るのです。

みなし残業制・固定残業制は違法なのか?

ところで、みなし残業制や固定残業制は「そもそも違法ではないのか?」が気になっている人も多いでしょう。

もし違法だとすれば、みなし残業制や固定残業制の企業は避けたほうが無難ですよね。

実際はどうなのか、しっかりと確認しておきましょう。

みなし残業制・固定残業制そのものは違法ではない

結論としては、みなし残業や固定残業制に違法性はありません。

残業代をあらかじめ組み入れた給与体系にすることは認められています。

ときどき「固定残業制=ブラック企業」のように決め込んでしまう人がいますが、これは誤解ですので注意してください。

きちんとルールに則ってみなし残業制・固定残業制を導入している限り、違法ではないのです。

ルールに則って運用されていないと違法になる場合がある

ただし、ルール通りに制度が運用されていなければ、法律に抵触する可能性はあります。

みなし残業制や固定残業制に限らず当てはまることですが、給与規定や労務管理は法律を守って定めなくてはなりません。

よって、就職や転職の際には応募先企業が法律を守っている企業なのかどうか見極めることが重要です。

ここを見極められるかどうかによって、就職・転職後の働きやすさが大きく変わります。

自分の身を守る意味でも、みなし残業制や固定残業制について正確に理解しておくことは非常に大切なポイントです。

みなし残業制・固定残業制が違法になるケース

みなし残業制・固定残業制が違法になるケースとして、よくあるパターンを紹介します。

もし次のパターンに該当するようなら、制度として適切ではない可能性が高いでしょう。

みなし残業制の解釈に誤りがある

みなし残業制について経営者や人事が正確に把握しておらず、誤った制度設計になっているケースが想定されます。

たとえば、みなし残業時間に相当する部分の残業手当を基本給に組み入れてしまっているようなケースです。

求人情報などに給与条件を記載する際には、基本給と残業代は明確に分けて記載しなければなりません。

厚生労働省は、固定残業制を採用する場合には求人票に次の3点を明示するよう呼びかけています。

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

つまり、上記を満たしておらず「固定残業代を含む」とだけ表示している求人は基本的にNG。

労使訴訟に発展した場合、企業は何らかのペナルティを受ける可能性があります。

基本給が最低賃金を下回っている

基本給+みなし残業代を提示している求人の場合、基本給が低い金額になっているケースが見られます。

最低賃金は残業代を含まない基本給で計算するので、基本給を労働時間で割った場合に最低賃金を下回ってはなりません。

最低賃金を下回る条件で従業員を雇用すれば、企業は罰金刑などを受けることになります。

みなし残業代を含む月給だけでなく、基本給がいくらになっているのか確認しておくことが大切です。

みなし残業時間を超えても残業代が支払われない

みなし残業時間を超えて勤務した場合は、超過した分の残業代を支払うのがルールです。

支払う・支払わないを企業が独自に決定できるものではないので、超過分の残業代の扱いを必ず確認しておきましょう。

なお、固定残業手当が「80時間分」など、過労死ラインすれすれに設定されているようなケースも注意が必要です。

みなし残業制は「働かせ放題」の仕組みではないので、常識の範囲を超える固定残業代を設定することはできません。

所定のみなし残業時間が過大に設定されていないか、求人情報や労働契約書をきちんと見ておくことが重要です。

みなし残業制・固定残業制のチェックポイント

就職・転職時に応募先候補の企業がみなし残業制・固定残業制だった場合、どのような点をチェックするべきでしょうか?

必ず確認しておきたい4つのポイントをまとめてみました。

1. 所定の残業時間が多すぎないか

はじめにチェックしておきたいのが、固定残業として設定されている時間です。

残業時間として多すぎるのか適切なのかを判断する上で、参考になるのが次の基準。

  • 国が定めている過労死ライン:月80時間
  • 月20日勤務で1日2時間残業:月40時間
  • 優良企業の残業時間の目安:月20時間程度

つまり、所定の残業時間が40時間前後を大きく超えているようなら警戒したほうがよいということ。

常識的な範囲でいえば、月60時間あたりが限度でしょう。

月60時間となると、完全週休2日の職場なら1日平均3時間は残業することになります。

定時が17時なら20時まで勤務するのがスタンダードと考えてください。

過労死ラインすれすれを固定残業時間に設定しているようでは、働きすぎていることは明白です。

上記の基準を参考に、所定の残業時間が常識の範囲内に収まっているかチェックしましょう。

2. 所定の残業時間を超えた場合の対応が明記されているか

みなし残業制・固定残業制の職場でも、所定の残業時間を超過すれば残業代を追加で支払わなくてはなりません。

超過分の残業代について明記されているかどうか、求人情報をきちんと確認しておくことが大切です。

たとえば固定残業時間が20時間の場合、「20時間を超えた場合は別途残業手当を支給」のように記載する必要があります。

もし超過分の残業代について一切触れていないようなら、法令遵守への意識が希薄な企業の可能性を疑うべきでしょう。

みなし残業制・固定残業制は「働かせ放題」の仕組みではありません。

この点を正確に理解し、ルール通りに運用している企業かどうかを見極めておくことが重要です。

3. 固定残業代と基本給は分けて記載されているか

固定残業代と基本給が明確に分けて記載されているかどうかも、必ず見ておきたいポイント。

一例として「月給27万円(固定残業40時間分の残業代を含む)」とだけ書かれている場合、基本給がいくらなのかが不明です。

残業代は基本給をベースに算出するのが一般的ですが、企業によっては複数の手当を加算していることもあり得ます。

固定残業代を含む各種手当を加算した結果27万円になるのであって、実際には基本給が13万円かもしれません。

賞与や退職金は基本給をベースに算出されるケースが多いため、基本給が低いと将来的に不利益を被る可能性が高いでしょう。

基本給が低い企業ほど月給の内訳を伏せる傾向があるので、固定残業代と基本給の内訳には十分に注意しておく必要があります。

4. 口コミサイトに悪い評判が多数投稿されていないか

みなし残業制や固定残業制が適切に運用されていない企業では、従業員の不満も鬱積しやすくなります。

入社時に聞いていた勤務時間よりも実際の労働時間のほうがはるかに長ければ、当然ながら不満を持つ人が増えるからです。

こうした企業では、従業員や元従業員の方々が企業の口コミサイトに悪評を投稿しているパターンが多く見られます。

「長時間労働が常態化している」「勤務時間が長すぎてプライベートの時間が確保できない」といった投稿が目立つようなら要注意。

口コミサイトは企業側が投稿内容をコントロールできないため、実態に近いリアルな情報を得られるのが長所です。

つまり、長時間労働が負担になっているという声が多数見られる職場は、実際に労働環境が劣悪な可能性があります。

みなし残業制や固定残業制の実態を知りたい場合には、複数の口コミサイトをチェックしてみましょう。

遵法意識の低い職場なら退職代行サービスの活用も検討

もし現在の勤務先で違法なみなし残業制や固定残業制が横行しているようなら、退職・転職を検討するのも1つの考え方です。

辞めにくい・引き留られそうといった懸念があるようなら、退職代行サービスを利用する方法もあります。

退職代行サービスを利用するメリットと注意点について見ていきましょう。

遵法意識の低い職場では無理な引き留めや違法な退職拒否が慢性化しやすい

違法なみなし残業制や固定残業制を続けている企業は、そもそも法律を守ることへの意識が低い可能性があります。

従業員にとって、残業代や給与の計算根拠は極めて重要な事項です。

こうした重要なことに関心が低く、法律に抵触することへの危機感が薄いようでは、企業としての先行きも明るいとは思えません。

見切りをつけて新しい環境へと移ることは決して「逃げ」ではないので、転職も視野に入れておくべきでしょう。

ただし、遵法意識の低い企業は退職を申し出た従業員を無理に引き留めたり、違法な退職拒否をしたりする恐れがあります。

退職を申し出ても辞めることができず、「辞めようとした」というレッテルを貼られて勤務を続けるのは避けたいところ。

より確実に退職するには、退職代行サービスを利用するのが得策なケースも少なからずあるのです。

退職代行サービスを「費用の安さ」だけで選ぶリスク

近年は数多くの事業者が退職代行サービスを提供するようになりました。

中には非常に安価な料金設定のサービスも登場しているものの、費用の安さだけで退職代行サービスを選ぶのは危険です。

そもそも、退職代行サービスが担える範囲は「退職手続きの代行」に限られています。

勤務先が退職の申し出を拒否するなど、トラブルに発展した場合に「交渉」や「説得」を引き受ける権限はありません。

つまり、退職代行サービスを利用したものの、結果的に退職できないこともあり得るのです。

費用が著しく安い退職代行サービスの場合、トラブル発生時に対応できず、かえって事態が複雑化してしまうことも考えられます。

退職代行サービスを選ぶ際には、費用の安さだけを優先しないことが非常に重要です。

労働組合か弁護士がついている退職代行サービスを利用すること

トラブルを避けるには、労働組合か弁護士によるフォローが可能な退職代行サービスを選びましょう。

労働組合や弁護士は、勤務先との交渉や上長・経営者の説得を通じてトラブルを解決することができます。

仮に勤務先が退職を拒否しても、粘り強く交渉して確実に退職できるように対処してくれるのです。

ただし、労働組合といっても活動実態のないペーパー組織の場合もあるため注意してください。

こうした書類上だけの労働組合の場合、交渉は無効になってしまう恐れがあります。

きちんとした活動実態があり、いざという時に力になってくれる労働組合がついているサービスを選ぶのがポイントです。

まとめ

みなし残業制や固定残業制そのものは違法ではありません。

しかし、制度の趣旨や運用方法が適切でなければ違法性があるだけでなく、従業員の過重労働にもつながりかねません。

今回解説してきたチェックポイントを参考に、勤務先や応募先の残業規程を確認してみてください。

ルールに則って制度が運用されていることを見極められるようになれば、過剰な長時間労働に苦しむリスクを軽減できるはずです。

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